政府が『ゆるやかな景気回復』を強調する一方、賃金は下落傾向にあり、大多数の人々の生活は悪くなっているといえる日本。2006年(平成18年)には「格差社会」が新語・流行語大賞にランクインしたが、「格差」はますます広がりを見せている。
『アンダークラス』(ちくま新書)の著者で、社会学者の橋本健二さん(早稲田大学人間科学学術院教授)が語る。
「昭和までの日本社会は、『資本家階級』、『中間階級』、『労働者階級』の3つに分かれると考えられてきました。しかし平成に入ってから、労働者階級の中でも正規雇用の人々は所得が安定していたのに対し、非正規労働者だけが取り残され、底辺へと沈んでいきました。近年は、労働者階級の内部に巨大な裂け目ができ、極端に生活水準の低い非正規労働者の新しい下層階級=『アンダークラス』が誕生しているのです」
非正規労働者のうち、家計を補助するために働くパート主婦、非常勤の役員や管理職などを除いた人たちを「アンダークラス」と呼ぶ。
平成の30年の間に日本は、経営者などの「資本家階級」、専門職・管理職などの「中間階級」、そして「労働者階級」の3層構造から、労働者階級の下に「アンダークラス」という新しい最下層ができて4層構造になった。橋本さんはアンダークラスが生まれた理由を次のように分析する。
「アンダークラスの起源は、1980年代後半のバブル経済期にあったといえます。まさに平成時代がスタートした1989年頃のことです。
かつて日本は『一億総中流社会』と信じられてきました。しかし、1970年代のオイルショックを機に雇用が低迷し、徐々に変化。1980年代初頭から格差拡大が始まり、1980年代後半のバブル期にも、企業はコスト削減のため、正社員をあまり増やさず『非正規労働者』を増やしたのです」