現在25%の追加関税率がかかっているのは500億ドル分だけである。2000億ドル相当分について10%程度の追加関税措置であれば、人民元対ドルレートを元安方向に動かすことで、十分対応できる。実際の人民元対ドルレートを見ると、昨年は6月から11月に大きく人民元安方向に振れており、追加関税措置の影響をかなりの部分、吸収できている。
しかし、10%の追加関税率が25%になれば、ちょっとした元安誘導では調整ができない。また、アメリカ側の非難も厳しくなるので、簡単には人民元安誘導はできないであろう。さらに、もし、3250億ドル相当の中国製品についても、25%の追加関税措置が行われるようなことになれば、アップルのiPhoneにも関税がかかることになり、影響は甚大である。
そんなことになれば、中国だけでなく、アメリカの消費に与える影響も大きい。
トランプ大統領は、「だから中国側は折れるはずだ」と高をくくっているのかもしれないが、そう思い通りにいくだろうか。過去の中国共産党外交交渉の歴史を見る限り、共産党は国際的な孤立をいとわず、また、外圧に屈する形で折れることはなかった。
またトランプ大統領は、米中協議の破綻は株価の下落、経済の悪化を通じて、自分の大統領再選にとって致命傷になりかねないということもわかっているはずだ。
9~10日にかけて、米中貿易協議がワシントンで開かれるが、結果がはっきりするまで、市場の混乱は続きそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。