純粋なわが子かわいさとは別の理由から、親が子供を手放せなくなるケースもある。41才の独身息子と同居する佐々木チエさん(70才)が心情を明かす。
「10年くらい前までは『早く結婚して』『孫の顔が見たい』と盛んに急き立ててきたけど、今となっては結婚せず家にいてほしいと願わずにいられません。というのも、この年になるとスーパーに行っても重いものを持って帰るのはキツイし、習い事に出かけるのも夏場は暑くてしんどい。かといって5つ上の高齢の夫があてになるわけはない。
それでも息子が同居しているから仕事が休みの日は車を出してくれるし、体の調子が悪い時も心細くない。10年前ならまだしも、今さら“結婚する”なんて言われたら困っちゃう。家を出て行かれるのも不便だし、かといって知らない女性がお嫁さんとしてうちで暮らし始めるのを想像するとおっくうで…そう考えると今の状態が、いちばんいい (苦笑)」
「実家暮らしは親孝行です」と断言
引きこもりや実家暮らしの子供を持つ親の相談にのってきたファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは、「10年一緒に住めば、親の心は変わる」と言う。
「不思議なもので、『社会人の息子が家を出ない』と悩んでいる親でも、10年くらい経って自分が年を取ると、子供がいる方が便利になる。たとえば、ちょっと車を出して病院に行ったり、力仕事が必要だったりする場合、若い力があるとすごく助かります。
こうした場合、親と子供が互いに依存し合い、切っても切り離せない関係になる『共依存』に陥りやすい。口では『子供が出て行かなくて困っているのよ』と言っても、本音では『ずっといてほしい』ということになるんです。しまいには子供が家を出ようとしても、親が『頼むから一緒にいてほしい』とすがるようになります」
そんな親心を見透かしてか、定年を控えても「実家暮らしは親孝行です」と断言する子供もいる。大手企業に勤める岡本健さん(仮名・57才)は、社会人になってからも神奈川県の実家で両親と暮らす。