2人とも「働き方改革」には過労死を防ぐ力はないという指摘で共通する。働く現場は「時間さえ制限すれば快適」というほど、そんなに単純なものではないのだ。特に、女性の働く環境は、労働時間をどうこうしたところで、まったく何の解決にもならないと言っていい。
「女性たちはいつも“男性労働力の補完”として扱われる」
日本女性の働き方の歴史を振り返ると、男女雇用機会均等法(1986年施行)や男女共同参画社会基本法(1999年施行)などで徐々に女性が社会進出を果たしてきたように見える。『女性労働の日本史──古代から現代まで』(勉誠出版)の著者で、桜花学園大学客員教授の石月静恵さんが解説する。
「振り返ると、女性たちはいつも“男性労働力の補完”として扱われ、時代の変化に翻弄されてきました。
戦前までは“家を守る存在”だった女性が、戦時中は一気に大きな労働力として社会に登場します。それは、男性が戦場に赴いていたからです。戦後、男性が大量復員すると、国鉄(現JR)などの公社や民間企業で女性たちは大量解雇の憂き目を見ました。
1960年代、1970年代の高度経済成長期になると、経済が活性化するので、男性正規社員だけでは労働力が足りない。そこで、女性がパート労働として引っ張り出されます。1980年代後半のバブル期になると一層の人手不足もあり、1986年には男女雇用機会均等法が施行されて、一段と女性の労働力が求められました。
ところが、1990年代になるとバブルが崩壊し、就職氷河期が始まります。真っ先に労働市場から閉め出されたのは、女性たちでした。その後も構造は変わらず、多数の男性正社員を補う存在として、派遣社員など非正規雇用で働く女性が増え続けています」
先に述べた通り、安倍政権の「働き方改革」は、少子高齢化による労働人口(主に現役世代男性のこと)の減少を、女性労働者で補うことを目的とする。今までずっと繰り返してきた「男性正規社員だけじゃ足りないから女性も働いて」という「男性中心社会」の延長線上でしかないのだ。
※女性セブン2019年6月13日号