20代でも、缶切りを使ったことがない人はいる。去年まで大学生だった20代会社員・Bさんは、缶切りとのファーストコンタクトを述懐する。
「大学生1年ではじめて飲食店でアルバイトをしたとき、タブのないトマト缶を渡されて、社員さんから『缶切りで開けといてね』と言われて戸惑いました。どうやって開けるのか、使い方がわからなかったので、とりあえずカッターみたいに引けば切れるのかと思って、尖った部分を擦ってみました。
その様子を見た社員さんからは『使い方知らないの?』とかなり驚かれました。丁寧に教えてくれましたが、私は左利きなので、ふつうの缶切りだと使いにくい。ものすごくモタモタしてしまいました」
60代の主婦・Bさんは、かつて生活には缶切りが必需品だったが、現在は自身の生活から缶切りの存在が薄れていることを感じているという。
「昔は缶切りを使うのは当たり前で、よくみかん缶やパイン缶を息子のために開けていました。缶切りも魚肉用と果物用と2つを使い分けていましたね。缶詰を開けていると、子どもはすごくやりたがったものです。缶切りの使い方を教えたり、上手にできたらほめていたことを思い出します。
とはいえ、いまは、タブ付きで缶切りが不要な缶詰が多くて助かっています。缶切りだと力が必要で、開けるのも一苦労ですし、うっかり指を切ったりして危ないし。でも、なんだか少し寂しい気もしますね。親と子の共同作業やコミュニケーションツールとして、とてもよい道具だったのかなと思ったりします」
便利機能の登場とともにその役目を終えるツールは少なくないが、缶切りもまたその流れに逆らえないようだ。