シンクタンク「フィデリティ退職・投資教育研究所」が退職金を受け取った男女8630人を対象に2015年に行なったアンケート調査によると、そのなかで「使い途」を聞いた質問への答えで最も多かったのは23%の「将来、生活費に使う」。先行きの見えない老後のために当面は貯金をするという消極的な選択が1位だった。僅差の2位は「ローンの返済」(21%)、3位「日々の生活費(19%)」と続く。
1位の「将来、生活費に使う」というのは、「もしも」の時に備えて蓄えておく、つまり、受け取ったらひとまずは銀行に預けるという選択だ。リスクがなさそうに思えるが、注意すべきことがある。
田端さん(61・仮名)は会社から退職金の振込先を問われた際、迷うことなく現役時代から使ってきた銀行の普通口座を指定した。
「病気やけがは突然やってくる。だから、現金としてある程度もっておかなきゃいけないと思ったんです。
会社の同期で仲のいいヤツは『退職金専用の、利率のいい定期預金があるよ』といっていたけど、預けている間は下ろせないわけでしょう。それでは不便だなと。しかも最長で2年しか預けられないと聞いた。そのために新しく口座を作って移しかえるのも面倒に感じたんです」
だが、ファイナンシャルプランナーの森田悦子氏によれば、「これはありがちな誤解」だと注意を促す。
「たしかに、退職金定期は原則、途中解約できません。しかし、医療費が足りない、生活費が不足したなどやむを得ない事情があれば可能です。その場合には満期で適用される0.5%程度の『定期預金金利』ではなく、0.001%の『通常金利』になります。つまり通常の預金に比べてデメリットはありません」
※週刊ポスト2019年6月21日号