7月にイギリスの新たな首相に就任したボリス・ジョンソン氏。10月31日までに必ずEU(欧州連合)離脱を約束すると豪語しているが果たして実現するのか――。EU離脱の現実味や合意なき離脱が起きた場合のポンドの見通しに関し、ゴールドマン・サックス出身でヘッジファンドマネージャーの実績を持つ志摩力男氏が分析する。
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10月31日のEU離脱を約束してイギリス首相の座についたジョンソン氏ですが、多くの市場参加者はイギリスのEU離脱に懐疑的でした。首相就任当初はゴールドマン・サックスのレポートでも「合意なき離脱(ハードブレグジット)」の確率が上昇したものの、15%から20%へと5%の微増に過ぎません。20%の離脱確率は「合意なき離脱」はほぼ起きないと言っているようなものです。
ところが、ジョンソン首相はハードブレグジットに向け、主要閣僚をコテコテのハードブレクジット派で固めます。ゴーブ国務相、ラーブ外相、ジャヴィド財務相、バークリーEU離脱相、コックス法務長官、それに側近であるドミニク・カミング氏の「強行派」が加わりました。10月31日に何が何でも離脱するという意思表示をしたのです。これに市場は大慌て。大規模なヘッジ売りが出て、ポンドは急落しました。
ジョンソン首相にとって、市場を説き伏せられたことは朗報です。日本でも2012年に安倍政権が再度誕生するとき、思い切った金融緩和からインフレ政策を採ると多くの人が信じ、ドル円は急騰しました。直後の安倍政権の躍進は、このときに決まったようなものでしょう。人々に「変わるんだ!」と、信じこませることに成功したのです。
政権の「本気度」に疑念が持たれるようなことあってはなりません。これから先もジョンソン政権は、何が何でもEUから離脱するという姿勢を打ち出してくると思われます。そうでなければ欧州側と交渉も出来ません。しかし欧州側も素知らぬ態度をとり、イギリスとEU双方が譲歩しないまま、ハードブレグジットを迎えることも考えられます。