もし、その提案をルノーが飲まなかったら、日産とルノーが結んでいる「RAMA(改定アライアンス基本合意書)」を利用する。これは日産の首脳人事や両社の取締役の比率など統治のルールを規定した重要な協定で、その中に「ルノーが日産の経営に不当な干渉をしたら、日産は独自の判断でルノー株を買い増せる」という項目がある。
現在、日産が保有しているルノー株は15%で議決権がない。だが、10%買い増して25%にすれば、日本の会社法により、ルノーの日産に対する議決権が消滅する。ルノー株の買い増しはRAMAの規定で日産だけで決議できるが、その実行には前述したように「ルノーが日産の経営に不当な干渉をした場合」という条件が付く。つまり、ルノーが先に動かなければ、この“伝家の宝刀”を日産が抜くことはできない。
しかし、第一段階の日産株買い戻し交渉が難航したら、ルノーとフランス政府が日産株を買い増して日産の取締役人事権を握ろうとしたり、西川社長の首を取りにきたりすることは十分に考えられる。それは「日産の経営に不当な干渉」となり、日産のルノー株買い増しが可能になる。互いに腹の探り合い、水面下の攻防となるが、日産は夜陰に乗じてルノーとフランス政府の裏をかくしかない。
また、その一方で日産は三菱を吸収合併すべきだと思う。幸い三菱にルノーの資本は入っていない。日産が35%の三菱株を保有しているだけなので、この際「日産三菱自動車」になって国内の軽自動車市場および三菱がけっこう強いインドネシアやロシア、オーストラリアなどの市場で競争力を強化するのだ。
そして経営陣が育っているイギリスのサンダーランド工場やアメリカ・テネシー州のスマーナ工場、メキシコ工場、中国・東風汽車と合弁で設立した中国工場の設備と人材を活用してグローバル戦略を再構築していけばよいのである。
ルノーとのアライアンスで世界トップを競っていた時に比べるとうんと小さくなるが、それでもホンダやFCAと同じくらいの規模だから、世界トップ10以内にとどまることはできる。
30年以上前、1980年代に日産の経営再建を手伝った1人としては、今の惨状は見るに忍びない。何とかルノーやフランス政府の頸木(くびき)から脱し、独立独歩でサバイバルの道を見いだしてもらいたいものである。
※週刊ポスト2019年9月20・27日号