大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

FBの「リブラ」は従来の仮想通貨と何が違うのか 大前研一氏が解説

 もう一つの理由は、世界の国際決済システムの中核を担っているSWIFT(国際銀行間通信協会*)がアメリカの強い影響下にあることだ。国境を越えた決済や送金の大半は米ドルが使われているが、アメリカの制裁対象に指定された銀行や企業はSWIFTのシステムが使えなくなり、米ドル建ての決済や送金ができなくなる。

【*銀行間の国際金融取引の内容をコンピューターと通信回線を使って伝送する決済網。1973年に発足し、現在は200以上の国や地域の金融機関など1万1000社以上が参加している。本部はベルギー】

 最近ではイラン核合意から離脱したトランプ政権が、イランと取引している銀行や企業に制裁を科すと警告したため、多くの国の銀行や企業が震え上がった。たとえば、フランスの石油大手トタルはイランの天然ガス開発プロジェクトを中止したが、制裁によってSWIFTのシステムが使えなくなったら、トタルのような多国籍企業はビジネスを継続することができなくなってしまうのである。

 つまり、米ドルが基軸通貨でアメリカが国際決済システムを握っているから、身勝手なトランプ大統領に世界中が振り回されているのだ。したがって、いま世界は米ドル以外の基軸通貨、SWIFT以外の国際決済システムを求めている。そうなる可能性があるのがリブラであり、だからこそ、トランプ大統領は「暗号資産は好きではない。通貨ではないし、価値も不安定だ」などとツイートしてリブラをつぶそうとしている。

 だが、リブラはビットコインなど価値が乱高下して投機の対象になった従来の仮想通貨とは全く違う。これまでの仮想通貨は発行・運営団体が不在で価値の裏付けもなかったが、リブラは前述したようにリブラ協会が発行・運営し、米ドルやユーロ、日本円、イギリスポンドなどの主要通貨や短期国債などで裏付けることによって価値が大きく変動しにくい設計になっている。

 それに加えて私は、スイスフラン、カナダドル、オーストラリアドル、中国人民元、ロシアルーブル、インドルピーなど10か国くらいの通貨の加重平均で1リブラの価値を決めるようにすればよいと思う。

 ここで想起すべきはユーロの経験だ。EC(欧州共同体)およびEU(欧州連合)ではユーロに先立ち、1979年3月から1998年末までの間、「ECU」という通貨単位が使われていたが、その価値は参加する国々の通貨の加重平均で決められた。このヨーロッパの経験を参考にしてリブラの価値を決めれば、安定した「通貨」にすることは十分可能だと思う。

※週刊ポスト2019年10月4日号

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