オンライン旅行会社・シートリップ社が9月26日に発表した「2019年国慶節休暇旅行先趨勢予測報告」によれば、休暇期間中に延べ8億人近くの人が旅行し、延べ750万人が海外に出かけるとみられる。昨年と比べた旅行需要がどの程度伸びているかといった細かい点までは分からないものの、海外渡航先順位では、日本がタイを抜いてトップとなっている。
足元では香港でデモが過激化しており、客足は遠のいている。民主化運動の高まりから台湾への旅行客も減っている。そうした国際環境の変化が日本への旅行者を増加させる要因の一つとなっている。
チケットの属性から判断すれば、日本への旅行客の内、女性が59%を占めている。また、生年が1980年代以降、1990年代以降の若者が増えており、合わせて全体の6割以上を占めている。若い人たちは、団体旅行ではなく、個人旅行を好む。浙江省の1980年代以降生まれのある若者は、今回が今年に入ってから6回目の日本旅行だという。旅慣れたリピート客が増えているともいえそうだ。
地域別では、上海発が46%、北京発が20%を占めている。俗説かもしれないが、上海人と日本人、特に大阪人は相性が良いと言われている。そうした説を裏付けるデータと言えるかもしれない。
筆者は中国の名所旧跡を旅する機会があるが、圧倒的な景観の大自然であったり、建造物であったり、一見の価値のあるところが多い。ただ、多様性という点では日本の方が優れているように感じる。
欧米の富裕層旅行客にとっては、日本の居住空間は高級感に欠け、食はボリュームに欠けるかもしれないが、中国の若い旅行客、庶民層旅行客は、一般的な日本人と感覚はそれほど変わらず、そうした点は大きなマイナスにはならない。歴史的な建造物にしても、中国ほど古くはないとはいえ、清潔に、大事に、細部にわたり十分保存されており、中国人にとっては、日本を訪れながらも中国の歴史を感じ取れるようなところもあるようだ。また、若者にとって、日本のアニメやファッションは身近であり、熱心なファンも多い。
中国の観光地と日本の観光地とは競合関係にあるのではなく、むしろ補完関係にあるように思う。これは経済でも同じである。中国が大きな構想力や大胆な投資によって、新たな領域を開拓したとしても、中国が苦手とする、地道で、忍耐強い研究開発、生産技術の改良を強いられるような分野、複雑で、細かい作業が必要となるような分野においては、日本に優位性がある。日本と中国との共存共栄は十分可能ではないだろうか。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。