複数の指標発表が続くとチャンスも広がる
羊飼いはこのとき、雇用統計には悪い結果を期待していた。トレンドと同じ方向の結果が出ればドル売りが加速して利益を出しやすくなるからだ。しかし、21時半に発表された結果は市場予想を上回る好結果でドルは一気に上昇した。
トレンドと逆方向に向かったのでしばらく様子見することにした。
するとわずか数分で、レートは大きな陰線をつけて下落してきた。ポジティブサプライズがあった割には上昇幅は40銭程度と小さい上に数分しか続かなかった。やはり地合いは相当弱いと判断できた。
そこで、112.20円付近でドル売りをスタートした。これを112円ちょうどあたりで利益確定し、その後のもみ合い相場ではレンジ上限付近での戻り売りを繰り返した。
レンジ相場といえども、羊飼いはレンジの下で買って上で売るという取引はせず、トレンドと同じ方向でのみ取引することにしている。レンジ相場はいつ終わるかわからない上、トレンドの方向に大きくブレイクする可能性が高いので、逆方向で取引するのは危険だからだ。
さらにこの日は、注目度の高い指標の一つであるISM製造業景況指数(以下ISM)の発表が23時に予定されていたので、22時半にはいったんすべてのポジションを決済した。予想外の結果でレートが思わぬ方向に動く可能性もあるので、重要な指標発表はノーポジションで臨むのが基本だ。このように発表が立て続けにある場合、雇用統計に気を取られてISMの存在を忘れていると、思わぬ値動きに巻き込まれる可能性があるので十分気をつけたい。
この発表を待つ間に、次の戦略を立てる。雇用統計の好結果でも上がりきれない地合いであることがはっきりしたので、ISMが悪ければ下落が加速して利益のチャンスが広がりそうだ。逆に良い結果が出た場合は、方向感がはっきりするまでは様子見に徹することにした。
発表されたISMの結果は市場予想を上回り、発表と同時にドルは再び急上昇を見せた。事前に描いたシナリオ通り、ここは様子見だ。45銭ほど上昇した後は1時間ほど高値圏でもみ合いが続いたが、0時半ごろにこのレンジの下限を明確に割って下落してきたのでドル売りを再開した。
1時すぎには112円ちょうどの節目も割ってきたので、ドル安は加速すると判断してショートを積み増し、ニューヨーククローズまで戻り売りを繰り返した。結局、その夜のドル円は111.60円付近まで下落した。
この日、もし経済指標の好結果と直後の上昇を見てロングしていたら、大きく負けてしまっていただろう。指標発表トレードは結果を見てすぐに乗るのではなく、直前までのトレンドを把握し、相場が動いた後にその流れが加速するのか、あるいは失速するのかを判断することが重要だ。
そういう意味では、この日のように重要な指標発表が複数続くと、相場の流れを判断しやすく利益のチャンスも大きくなる。
また、経済指標に対する反応を見ることで、トレンドの方向も明確になる。指標発表で取引しながらトレンドを確認し、その流れが続く限り乗っていこう。そしてそれまでと異なる反応が見られたら、トレンド転換の可能性があるので取引は慎重に進め、場合によっては中断して方向感を見極める姿勢が重要だ。
羊飼いの相場観としては、年内は円高目線を持っている。いずれにしても、大きなトレンドを形成したり変化のきっかけとなる最大の要因は、なんといってもFRB議長の発言だ。
年内のFOMC(連邦公開市場委員会)のうち、議長の会見があるのは6月、9月、12月だ。16年相場のメインテーマになっているアメリカの利上げペースについてなんらかの発言があれば、流れは大きく変わる可能性があり、この前後は特に注意しておきたい。
※マネーポスト2016年夏号