しかし、賞レースの決勝まで残る道は険しい。例えば昨年のM-1グランプリでは4640組中10組であり、恐ろしく狭き門だ。さらに、優勝するためには、その日のネタの仕上がり、ネタ順、会場の雰囲気も大きく左右する。決勝がその日でなければ他のコンビが優勝していたかもしれない、というほど運も必要になってくる。
芸人たちは、賞レースの決勝に残るためのネタを仕上げるために、様々なネタをライブで試す。手ごたえがあるネタができるとそのネタを何度もライブにかけ、客の反応を見ながらブラッシュアップする、という作業を繰り返す。
「M-1の場合、予選1回戦のネタ時間は2分で、決勝でも4分。この短い時間にネタを凝縮するため、無駄なセリフは省かないといけない。だから、ライブでウケたところだけを残してネタを作ったとしてもそれが最高のネタになるとは限らないんです。フリがあって前のボケがあったから次の大きな笑いに繋がることもあるのでどのボケを残すのかを決める作業で一番頭を悩まされます」
ライブや営業などのネタでは持ち時間は決まっているが時間に余裕があるのでアドリブも交えながらネタを披露することも多い。しかし、賞レースでは決められた時間内にボケを詰め込んでいるので、アドリブを入れる時間はほとんど残らない。同じボケでもライブの時と比べてセリフを短くする場合もある。ライブのネタと賞レースのネタは全く違ったものであり、これをしっかりと理解していないと賞レースでは勝ち上がれない。
バイト生活から脱却して、一躍スターへの階段を上るのは、並大抵のことではない。それでも、今日も多くの芸人たちが、賞レースを目指して努力し続けているのだ。
■文/矢口渡(芸人ライター)