《増税するなら、上級国民にもっと払わせればいいのに…》《老後の“悠々自適”なんて上級国民しかありえないでしょ》──。
インターネットを中心にじわじわと浸透する「上級国民」という言葉。この刺々しい言い回しが広まったきっかけは2019年4月に起きた痛ましい交通事故だった。東京・池袋で87才(当時)の元高級官僚の高齢男性が運転する自動車が暴走。母娘2人が死亡、8人が負傷したが、男性が逮捕されないことに「逮捕されないのは、上級国民だからだ」とネットを中心に批判が高まったのだ。
世の中は学校や住む場所など、あらゆる面で「上級/下級」に分かれていると断じた橘玲さん著の『上級国民/下級国民』(小学館新書)も話題を呼んでいる。
多くの人が自らを“中間層”だととらえていた「一億総中流時代」は終わりを迎え、地位や収入が二極化した社会構造が浮き彫りになっているということだ。それは健康も例外ではない。何を食べるか、どんな生活をするか、そういったある意味では「自己責任」の積み重ねでもある「健康」にも、所得や経済的な状況の違いによって格差が生じてきているのだ。
こうした「健康格差」について長年研究を続ける、千葉大学予防医学センター教授の近藤克則さんが解説する。
「対象者を追跡した調査研究から、所得や学歴、職業などの社会階層が低いと健康を損ないやすいことが明らかになっています。低所得の人の死亡率は、高所得の人の2~3倍高い。低所得の人ほど多くの病気にかかりやすいとわかっている。そうした事実を知った上で、何ができるのかを考えることは非常に大切です」
健康はお金で買える──そんな現実に向き合うことで、病気への対策や健康を維持する方法が見えてくる。「健康格差」に対するいちばんの処方箋は、知ることなのだ。