日本は高度経済成長によって分厚い中間層が生まれ、「一億総中流」と呼ばれる時代が長く続いた。しかし、それが崩壊して「格差社会」が到来。格差は開く一方で、すでにその差を埋められないどころか、先進国を中心に「上級/下級」への分断はますます加速している――。
そんな実態をさまざまな角度から解き明かした『上級国民/下級国民』(小学館新書)の著者である作家の橘玲氏は、「こうした分断は、平和な世の中が続く限り拡大する一方だ」という。どういうことか。橘氏が説明する。
「かつて一億総中流と呼ばれた時代は、富の蓄積が平均値を中心に正規分布する『ベルカーブの世界』でした。しかしグローバル化によって世界が全体としてゆたかになり、先進国と新興国のあいだの格差が縮小したことの代償として、先進国では中間層が崩壊し、富が一部の富裕層に集まる『ロングテール(べき分布)の世界』が出現しました。
『下級国民』というのは、かつて『中流の下』にいた人たちがショートヘッド近くの貧困層に集まる現象です。その一方で『中流の上』の人たちは富を増やし、そのテール(尻尾)がどんどん伸びて『上級国民』を形成しています」(橘氏)
アメリカでは最富裕の上位400人が所有する富が下位50%の富の合計を上回り、上位1%が同国の個人資産の42%を所有している。だがこれは「1%対99%」に富が局在しているということではなく、いまやアメリカでは10世帯に1世帯がミリオネア(金融資産100万ドル以上)だ。橘氏は、「これはもはや後戻りできない流れになっている」という。
「皮肉なことに、格差は、社会が平和で安定しているからこそ拡大しいきます。資産は複利で増えていきますから、毎月の余裕資金を株式などに積み立てていけば、30年、40年後には大きな資産を形成できます。それに対して、毎月稼いだ分をすべて生活費に使ってしまえば、いつでまでたっても銀行口座の残高は増えません。これを2世代、3世代と繰り返せば、両者の『経済格差』はとてつもなく大きなものになるでしょう。これが、平和な社会が『上級国民(富裕層)』と『下級国民(貧困層)』に分断されるメカニズムです」