【書評】『秋本治の仕事術 『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由』/秋本治・著/集英社/1200円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
週刊少年ジャンプに連載されていた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、私の一番好きな作品だった。懐かしい下町風景や人情のなかにスーパーカーとかデジタル機器といったその時々の最新トレンドが織り込まれて、決してマンネリになることがなかった。そんな連載を40年間も続けたのだから、著者の偉業達成の秘訣が知りたいと思うのは、誰しも同じだろう。
しかし、本書に書かれていたのは、魔法の仕事術ではなかった。もちろん、それはつまらないことが書かれているということではない。それどころか、どこまでも合理的な仕事術があったのだ。
時間管理は、自分自身で作業工程をスケジューリングし、そして一つ一つの工程の無駄を削っていく。そうすれば、全体の時間に余裕ができて、締め切りに間に合わなくなるリスクが減るだけでなく、新しい仕事や取材のための時間も捻出できる。肝は、工程の時間削減だ。
著者は、工場の取材をしたときに、工具箱から道具を出す時間を削るために、道具を壁に吊り下げた工場の工夫から思い付いたというのだが、このやり方は、20世紀初頭にフレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法」の主要手段だ。テイラーは、生産工程の作業を「要素動作」と呼ばれる動作単位に分解して、それぞれの時間を削減する方法を模索した。