10月12日に東日本を直撃した台風19号は列島各地に被害の爪痕を残したが、湾岸沿いではなく、神奈川県川崎市の内陸に位置する「武蔵小杉」(神奈川・川崎市)が大きな被害を受けたことに驚いた人は多かったのではないか。
「住みたい街」ランキング上位の常連、武蔵小杉の台風被害は、数年間にわたって大きく影響の残る厄災となりそうだ。これまでに築き上げた街としての“ブランド価値”が一夜にして崩れ去りかねない事態が起きたのである。
台風19号がもたらした大雨によって多摩川沿いの街は泥水に浸かった。JRの緑の自動改札機、駅構内の通路を縫う黄色い点字ブロックも濁った水で見えない。道路に停まる車は、車体の半分ほどまで沈んだ──。
「地下室に大量の水が流れ込み、住民総出でバケツリレーもしましたが水嵩は増すばかりで……。安全を考えて、最終的には自室に避難せざるを得ませんでした」
台風直撃当日を振り返り、駅近くのタワマンに住む男性は苦渋の表情を浮かべた。今回、武蔵小杉の街を襲った水害は「内水氾濫」と呼ばれる。この地域の雨水は、平時には地中の排水管に集まり、排水用の水門から多摩川に放出されている。
しかし、今回はあまりの雨量に多摩川の水位が上昇。河川の水が排水管に逆流し、マンホールなどから噴き出したとみられている。
武蔵小杉の街を覆った水には下水が含まれていたことから悪臭が漂い、排水不能となったマンションでは、「トイレ使用禁止」の貼り紙が出された。するとインターネット上で過熱したのが、被災したタワマン住民を揶揄する書き込みだった。
〈港区の部屋は買えないから、ムサコに来ただけのエセセレブ〉
それに対して、タワマン住民と思しき側が反論する。
〈(書き込んでいるのは)地元の奴らだろ。タワマンのおかげで人口も増えたし、駅前も整備されたのに文句ばっかり言いやがって〉
台風によって、街に何らかの“分断”が存在することが垣間見えてきた──。