その人気ぶりを如実に示すのが、タワーマンション群の先駆けとなったザ・コスギタワーの分譲単価だ。
「2008年の竣工時に坪単価(※30階付近のもの)180万円ほどで売り出されましたが、2016年時には中古物件にもかかわらず280万円前後に高騰した。少し落ち着いてきた感もあるが、今でもほとんど下落していません」
そう話すのは、不動産鑑定士の藤田勝寛氏。
「被災が話題になった47階建てマンションも、売り出し時の坪単価は230万円から250万円ぐらいでしたが、ピーク時には330万円前後まで上がり、近年でも300万円近い価格がついている物件です」
通勤時は駅の外まで改札待ちの行列ができる武蔵小杉だが、この人気こそが、今回、〈港区の部屋は買えないから、ムサコに来ただけのエセセレブ〉などとネットで拡散された「タワマン住民攻撃」の導火線になったと指摘する声も少なくない。
「セレブの街でも何でもないんですよ、本当の武蔵小杉っていう場所は……」
静かな声でそう語るのは、30年以上前からこの地で小料理屋を営む60代の男性だ。
「タワマンが建ち並ぶ武蔵小杉駅周辺は、工場ばかりだったんです。そこで毎日、汗水たらして働いた人たちが、仕事の後に商店街へやってきて、一杯やってね。そういう下町みたいな人情に溢れた場所が、もともとの姿なんですよ」
祖父の代から住んでいるというこの男性によれば、タワマンができてから武蔵小杉にやってきた“セレブ住民”たちは、昔からこの地で営業する個人商店よりも、駅前にあるデパートや大型商業施設を利用し、町内会との交流もないという。
「たとえば、お祭りだって準備するのは町内会や(地元の神社の)氏子なんですよ。マンションの人たちはお祭りには来ても、準備は手伝ってくれないからね。人と人との繋がりが弱くなると、もっと大きな災害時に地元民同士で助け合えるのか不安で仕方ない。
マンションの住民は賃貸も多く、今回の被害を受けて『もう出ていく』と言ってる人たちもいると聞きました。逆に教えてもらいたいのですが、タワマンは災害に強いんじゃなかったんですか?」
※週刊ポスト2019年11月8・15日号