“取られ払い損”にならない
1番目の「在職定時改定」の導入は、65歳以降の厚生年金保険料の「取られ損」をなくすための新しい仕組みだ。本来、年金は保険料を長く支払うほど年金額が増えていく制度だ。しかし、現行制度では、65歳から年金を受給しながらその後も会社員として働き続ける人は、70歳まで毎月厚生年金保険料を払わなければならないにもかかわらず、その間の年金受給額は増えない。
それというのも、年金受給額の再計算は70歳時点(70歳以前に退職した人は退職時)しか行なわれないことになっているためだ。65歳から5年間は保険料を払っても年金額はそのままで、70歳になってようやく年金額が再計算され、それまでに支払った5年間の保険料分に相当する年金が加算されて支給される。いわば、国が年金を“払い渋る”仕組みで、“保険料取られ損”はこのタイムラグによって生じる。
そこで今回の改正では、65歳以降も年金をもらいながら働いて厚生年金保険料を納めている人には、毎年、年金受給額を再計算(定時改定)し、前年に納めた保険料に応じて毎年年金額を上乗せしていく仕組みに改める。
《年金をもらいながら働けば、毎年、年金がアップする》のである。図の【シミュレーション1】は、厚労省が年金部会に提出した「在職定時改定の導入」の資料をもとに新制度と現行制度の年金額を比較したものだ。
「夫婦の年金」月額22万円の世帯の夫が65歳以降も月給20万円(厚生年金加入)で70歳まで働いた場合、現在は70歳になるまで夫婦の年金額は22万円のままで、70歳から年金額は年間6万6000円上乗せされて月額約22万6000円になる。
一方、新制度の「在職定時改定」が導入されると、夫が働いていれば66歳、67歳……と70歳まで年金額が階段状に毎年1万3000円(月額1100円)ずつアップしていく。70歳時点の受給額が約22万6000円になるのはこれまでと同じだが、65歳から70歳までの5年間の受給額は13万2000円増える。