萩生田氏は28日に謝罪、翌29日には発言を撤回して沈静化を図ったが、それでも批判は一向に収まらない。時を前後して、2人の大臣が辞任し、安倍政権が追い詰められる中、ついに11月1日、英語民間試験の見送りが発表されたのだ。
準備を進めてきた大学当局や受験生を大いに翻弄して、萩生田氏本人は騒動に区切りをつけたつもりなのかもしれないが、それはまったくの見当違いだ。「身の丈」発言が抱える根本的な問題は、英語の試験を見送っただけでごまかせるような簡単な話ではない。『教育格差──階層・地域・学歴』(ちくま新書)の著者で、教育社会学者の早稲田大学准教授・松岡亮二さんが話す。
「萩生田氏の発言は、図らずも日本の現況を的確に表しています。不利な状況にある家庭と地域に育った多くの子供たちが、自らの『身の丈』に合った生き方を選択することになる『教育格差社会』であるということが、改めて浮き彫りにされました」
地方で育つ女性が取り残されている
どんなに本人が努力しようにも、結局は自分が生まれた「地域」や「家庭」によって人生は大きく左右されてしまう。そういわれてしまうと身もフタもない残酷な話だが、最新の研究データはそうした傾向を如実に示している。
社会学者などのグループによって行われた最新の大規模社会調査(SSM調査、2015年)によると、地方よりも、都市部に高学歴者が多いことがわかった。すなわち、三大都市圏(東京、愛知、大阪周辺)とそれ以外の地域(非三大都市圏)の大卒以上の人の割合を比べると、20代から70代の全世代で、三大都市圏の方が多かった。
その中でも特に注目されるのが、20~30代では都市部と地方の格差が拡大する傾向にあり、特に「女性」にそれが顕著であることだ。SSM調査にも携わった松岡さんが分析する。
「たとえば、短大卒以上の40代女性の割合は、三大都市圏では45%、非三大都市圏で39%と、その差は6%でした。ところが、30代女性では8%に、20代女性だと26%になります。つまり、20年前に比べると、都市部では女性の進学率が高まり、男女格差が急速に縮小した一方で、地方で育つ女性が取り残されていることになります」