冒頭の主婦も地域格差を痛感している1人だ。
「実家から通える大学は数えるほどしかなく、娘が希望する学部は地元にはありません。となれば、都市部に出ていくしかない。もし東京で暮らすなら、学費を含めないでも、ざっと月に12万~13万円は必要で、下の妹と弟の学費もかかるウチにはそんな余裕はない。まだ10代の娘に“東京でバイトして稼いで”と言えますか? やんわりと、“実家から通える範囲にしたら?”と伝えていたら、娘も家のことを心配してくれるのか、“あの学部は諦める”と志望を変えて…。娘には申し訳ないのですが、どうしようもありません」
『アンダークラス──新たな下層階級の出現』(ちくま新書)の著者で早稲田大学人間科学学術院教授の橋本健二さんが話す。
「そもそも都市部と地方では、教育の機会が平等ではありません。家庭の所得水準も違いますし、大学の数や定員もまったく違います。就職も同様です。都市部の大学に行ったら、そのまま都市部で就職活動できますが、地方の大学を卒業しても地元に企業が少なく、都市部で就職しようと思っても、就職活動のたびに都会に出る必要があるため、時間とお金がかかる分、ハードルは上がります」
松岡さんは「教育に対する意欲も異なる」と指摘する。
「都市部では大学に行くのが当たり前という感覚ですが、地方では必ずしもそうではありません。その土地ごとに基準となる“普通”が異なるわけです。周囲の大人の大卒割合が少ないと、自分自身が大学に行こうという意欲につながりにくいこともあります」
そうして自分で選択肢や可能性を狭め、「身の丈」に閉じこもってしまう傾向があるのだ。『上級国民/下級国民』(小学館新書)の著者で作家の橘玲さんも指摘する。
「都市部にはお金持ちが集まりやすい。新潟県出身で、今でいう中卒なのに総理大臣にまで上り詰めた田中角栄さんも、娘の眞紀子さんには東京・目白の御殿に住まわせて早稲田大学を卒業させたように、地方の貧乏な家に生まれても、優秀な地方出身者はどんどん都市部に出てきて、一代で成り上がってしまう。高等教育の普及で日本よりも先行したアメリカでは、公教育で地方の“隠れた天才”が生まれにくい状況になっているといわれています」
※女性セブン2019年12月5・12日号