現在、改正に向けて議論が進んでいる「在職老齢年金」の制度。働きながら年金をもらう同制度は年齢で2つに分かれている。65歳以上の「高在老」(高齢者在職老齢年金)は月給と年金の合計収入が47万円を超えると年金カットが行なわれる。基準が高いため、実際に、年金カットされているのは給料が比較的多い層で1.5%にとどまる。
一方、65歳未満の「低在老」(低所得者在職老齢年金)は年金カットの基準が合計収入28万円と厳しいため、2割近い人が年金を減らされている。
今回の厚生労働省の改正案では「高在老」の基準は据え置き、そのかわりに低在老の年金カットの基準を「47万円」に引き上げる方針となった。
実は、この制度改正は、「年金のもらい方」の発想を転換させる強烈なインパクトを持つ。現在は65歳までの雇用延長期間に働きながら年金をもらう「繰り上げ受給」を選ぶと、給料が低くても年金を大きくカットされるが、その基準が緩和されることで、新制度では「60歳繰り上げ」を選んだ場合の65歳までの年金総額が現在より大きく増えるからだ。
今回の年金改正では「繰り上げ」を選んだ場合に次の2つの“特典”が受けられるようになる。
■特典1:年金額が現在よりアップする
■特典2:働きながら受給しても年金カットされない
“特典1”について、現行制度では繰り上げ受給を選択すると、65歳より1か月早くもらうごとに年金額が0.5%ずつ減額されていく仕組みだ。だが、厚労省が社会保障審議会年金部会に提出した資料では、この繰り上げ時の年金減額率を引き下げる(1か月0.4%に縮小)ことを盛り込んでいる。
実施されれば、厚労省の標準モデルケースで60歳繰り上げ受給を選んだ場合の年金額は現在の月額約11万円から、改正後は約12万円へと1万円アップする。5年間で約60万円もの増額だ。