「私の父は高卒で、色々な仕事を転々とした挙げ句、都市銀行に入ることができ、そこで定年まで勤め上げました。大して出世したわけではなく、学のない父のことを心の中でバカにしていた時期もありました。
けれども父は、埼玉県のベッドタウンに一戸建てを建て、子ども2人を私立の大学に通わせました。母親はずっと専業主婦です。どうやら家を買った直後にバブル時代がやって来て、かなり美味しい思いをしたようで、ローンもすんなり返せたようです。
一方、私は子どもの頃からマジメに勉強し続け、世で“一流”と呼ばれる大学を卒業しましたが、今後、どう考えても都内からの通勤圏内に一戸建てなど買えませんし、子供を2人持って、私立の大学に通わせるなど、経済的に不可能でしょう。そう思ったら、何だか色々なことがバカらしくなってしまいました……」
Sさんの父親世代は、今ほど学歴が“絶対”ではなかったようで、Sさんの父は高卒でも都市銀行に入ることができた。しかもバブルという大きな“ボーナス”も貰い、そこで経済的にも潤った。それにひきかえSさんが生まれたのはベビーブーム真っ只中でライバルも多く、大学受験で苦労し、不景気で就職活動でも苦労し、就職後も世の中の景気が良かったことは一度もない。
すべてを時代のせいにしてしまうのは情けないが、Sさんが不条理だと思うのも無理はないだろう。そんなSさんが「一生結婚しない」と固く誓うのは、やはり親との関係性も影響しているという。
「大学院まで出た私に対する父の期待は大きく、私に向かって『オレみたいな平凡な人生は送るな』と言います。けれどもオレに言わせれば、家も買って、車もあって、子供2人を大学に通わせられたら“超”がつく勝ち組ですよ! それならいっそ独り身で、自分が好きなことをやった方がずっといいですね」
かくして、結婚や子育てという人生プランを諦めたSさん。それでも父からは「頑張って大学院まで行かせたんだから、老後は頼む」ともほのめかされていて、Sさんもそれは当然だと思っており、今さらながらせっせとお金を貯めているそうだ。