朝はサラリーマンの夫を会社に、子供を学校に送り出し、キレイな家に住み、気が向いた時にママ友や友人とランチを楽しんで、子供の教育にも余念がない──「専業主婦」と聞いて、こんな生活をイメージする人もいるかもしれない。ところが実際は、さまざまな事情から経済的に行き詰まり、専業主婦を強いられ、貧困に陥る女性──「貧困専業主婦」が数多く存在する。
厚労省は、生活に最低限必要な収入を表す指標である「貧困線」を、4人世帯で収入244万円、3人世帯で211万円としている(2015年)。『貧困専業主婦』(周燕飛著、新潮選書)によると、この貧困線を下回る収入の「貧困世帯」のうち、妻が無職で18才未満の子供がいる夫婦世帯を「貧困専業主婦世帯」と呼ぶと定義される。
専業主婦の問題は貧困だけではない。家事や育児のすべてを専業主婦が担った結果、こんな悲劇も生まれる。36才で結婚するまで仕事にまい進していた山崎さん(仮名、44才)は、結婚を機に不妊治療のため離職した。妊活の末、2年後に待望の子供を授かり無事出産したが、子供の世話に追われる中、同居していた夫の母親が認知症になり、介護が必要になってしまった。山崎さんの夫(52才)が話す。
「朝は私と子供にお弁当を作り、子供が学校に行っている間は母の介護にかかりっきり。夕方になると急いで買い物を済ませて夕食を作り、夜も母から目が離せない状態がずっと続いていたと思います。
母が毎日のように、妻に理不尽な怒りをぶつけたり、暴言を吐いたりしているのは知っていました。『認知症患者のすることだから』と努めて明るく接する妻を見て、自分の仕事が忙しかったこともあって、真剣に相談にも乗らなかった。
でも、1年が過ぎた頃くらいから、今度は妻が母に手を出すようになってしまったんです。ノイローゼでした。うつ病の診断を受けて、今は外にもあまり出られません」