これらの平成の合併のうち、経済ジャーナリストの福田俊之氏が成功例と指摘するのは、2006年にトーメンと合併した「豊田通商」だ。
合併前の豊田通商とトーメンの経常利益は合わせて1115億円(2006年3月期)だったが、合併後は2019年3月期で税引前利益が2291億円と倍増している。
「古くから『トヨタ自動車の下請け会社』と呼ばれていた豊田通商ですが、合併によってトーメンの人材とノウハウを得て、アフリカを始めとする外国事業を急拡大させた。2012年には、アフリカビジネスに強いフランス最大の商社・CFAOも買収し、『アフリカなら豊田通商』と呼ばれるシェアを獲得した」(福田氏)
ジャーナリストの須田慎一郎氏は、2008年に三越と伊勢丹が合併して誕生した「三越伊勢丹ホールディングス」を成功例に挙げた。
1997年に9.2兆円あった全国の百貨店売上高が2018年には約6兆円まで減少する中、「選択と集中」の合併で活路を見出した。
「ネット通販の普及で百貨店ビジネスが斜陽となり、伊勢丹相模原店や府中店、新潟三越の閉店を決断する一方、伊勢丹新宿店、日本橋三越本店、銀座三越の基幹3店は結果を出しています。三越と伊勢丹が一緒になることでブランドバリューが高まり、百貨店での購買に価値を見出す人にアピールした」(須田氏)
実際、国内市場が縮小する中で、三越伊勢丹ホールディングスは2019年3月期連結決算で最終利益が134億円と、2年ぶりの黒字を計上した。
合併の成否は売上や利益ばかりでは測れない。2005年まで新日本製鉄に在籍した『鉄人伝説 小説新日鐵住金』の著者・小野正之氏が、2012年の同社と住友金属との合併をこう評する。
「合併が比較的スムーズに実現したのは、2002年から両社が業務提携を続けてきたことが大きかった。中国メーカーの台頭で鉄鋼業界全体に危機感が漂う中で、社員は両社の協業の必要性を認識していました」
2004年に東京海上火災保険と日動火災海上保険が合併した「東京海上日動火災保険」についても、須田氏は成功例だと指摘する。
「合併後に先進的な人事制度の整備を進め、業績につなげた稀有な例です。合併のメリットであるコストカットをしながら、いち早く女性社員の育成・登用に積極的に取り組みました。2015年に同社で初めて女性を常務執行役員に抜擢し、現在では女性管理職も多い」