父が急死したことで、認知症を患う母(85才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才・女性)による、母の介護体験記。化粧への関心を無くしつつある母の部屋に新しいコスメを発見して驚いたエピソードを紹介する。
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化粧に関心がなくなりつつある母だが、時々、思い出したように口紅を塗っては「毎日の身だしなみよ」と言う。ある日、母の部屋に見慣れない新品のコスメを発見。もう駅前の化粧品店までは行けないはずなのに…と、あらぬ想像が駆け巡った。
サ高住(サービス付き高齢者住宅)に転居してきたばかりの5年半前には、母はほぼ毎日化粧をしていたが、近頃はほとんどノーメイクでいることが多くなった。娘の目には老人風情が際立ってちょっと寂しい。たぶん認知症がジワリジワリと進み、化粧の習慣を忘れつつあるのだろう。
「今日はお化粧しないの?」と聞くと「毎日しているのに忘れちゃったわ。最近ボケたみたい(笑い)」と取り繕う。
でもたまに、思い出したように口紅をつけることもあり、ちょっとうれしい。こんな小さな一喜一憂の繰り返しだ。
そんなある日、母の部屋のテーブルに見慣れぬものを見つけた。唯一の楽しみの新聞や本が積まれた中に、新品のマニキュアとアイシャドウ。しかも、バリバリに違和感を醸し出している。明らかにそれが若い子向けのキラキラパッケージだからだ。
「え? これどうしたの?」 「ん? どうしたんだろう」
会話は穏やかだったが、私の心には嵐が吹き始めていた。
化粧水やクリームは、ほかの日用雑貨と一緒に私が買って来るのだが、メイク用品はもうしばらく買っていない。母が昔、買っていたような化粧品店は駅前にしかなく、今はもうひとりで行けないはず。(では、これらはどこで?)