比較的自由なサ高住では、お互いの部屋を行き来するうちに私物が紛れたりする。認知症の人も多いから、持って来たのか置いて行ったのかは不明。そこに感情的な家族が介入し、トラブルになることもあるのだ。あるときは母の部屋の棚に見知らぬ高級そうなティーカップを見つけて、肝を冷やしたこともあった。
でもこのキラキラパッケージ、少なくともここの住人のものではなさそうだ。認知症高齢者の未知の世界にあらぬ想像が駆け巡り、凍り付いた。
母の行動範囲内にコンビニがある幸せ
しかし、そんな私の不安はほどなく解決した。定期通院の途中、私が現金を下ろすため、コンビニに寄ったときのこと。私がATMにいる間、母は解き放たれたように店内を歩き始めた。
この店は、サ高住の玄関から1本道でわずか100mほどにある。最近めっきり狭くなった母のひとり散歩の範囲にも入っていて、雑誌や父に供える酒もここで買っているらしい。それも一緒に出かけるときは私が買うので、母が自分で買うのはまれだ。買い物する能力もどんどん減ると思うと残念だが、仕方がない。
ふと見まわせば母の姿が見当たらない。焦って捜すと、母が前のめりに見入っているのはなんと化粧品コーナー。普段気に留めていなかったが、化粧品の充実ぶりも驚きだ。母の部屋にあったマニキュアとアイシャドウも並んでいる。
「ここで買ったんだ! かわいい色、いっぱいあるね~」
思わず私も本気で言った。きれいな色の化粧品は、見るだけでも気分が上がる。アイシャドウなど母は使い方も忘れているはずだが、いいぞ、その心意気!
「そうよ、いつもここで化粧品を買うの。身だしなみよ」
コンビニの使いこなしは、母の方が一歩リードしている。
※女性セブン2020年3月12日号