段差が多く、階段に「手すり」がない我が家を「退職金でバリアフリーに」と考える人は少なくないが、“早過ぎるリフォーム”には落とし穴もある。東海地方在住の男性は、父親(76)が直面したケースを語る。
「父が定年退職した16年前に、20万円かけて階段や脱衣所に手すりをつけるリフォームを施しました。父は『これで足腰にガタがきても安心だ』なんて話していたのですが、2年前に脳梗塞で倒れてしまった。結果、右半身に麻痺が残ったんです。右手が自由に動かせないのに、よく使う場所の右側にばかり手すりをつけていたので、父は手すりをつかめないことも……」
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏が指摘する。
「体の不調が起きる前に、あらゆる可能性を想定して全方位的にリフォームするのは費用がかさみます。一方、要支援1以上の認定を受けていれば、要介護度にかかわらず工事費が最大20万円まで原則1割負担で済む。20万円を超えた費用は自己負担となりますが、必要な工事だけに絞ってリフォームできますし、費用は大幅に抑えられる」
高齢の家族が住む家を、配管工事なども含めて“全面リフォーム”する場合はリスクもある。太田氏が続ける。
「家の老朽化に伴って、内装や配管なども含めた大がかりなリノベーションを行なうと、高齢の認知症患者は自分の家だと認識できなくなってしまい、さらに症状が進行してしまう可能性がある」
これらの事態を防ぐために大切なのは「業者選び」だという。
「まず『介護リフォームの実績があるかどうか』を確認すべきです。脳梗塞による半身麻痺のリスクや、車椅子の幅の確保といったノウハウは、介護に精通した業者なら事前に指摘してくれるはずです」(太田氏)
焦る必要はない。どんな介護を必要とするのかを見極めてから、実績のある業者に依頼することが肝要だ。
※週刊ポスト2020年3月13日号