企業概要
伊藤忠商事(8001)は、1949年設立の繊維業を祖業とする非財閥系の大手総合商社。288の子会社・関連会社および9つのセグメント(「その他」含む)で構成され、傘下には、Doleやファミリーマート、伊藤忠テクノソリューションズやコネクシオといった多くの有力企業を擁しています。
繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において幅広いビジネスをグローバルに展開しており、バランスの取れた事業ポートフォリオを構築しています。
また、海外展開では、2015年、中国最大のコングロマリットであるCITICグループ、タイ最大で世界有数のコングロマリットであるCPグループと戦略的・資本提携をし、中国で、強みを持つ生活消費関連分野での事業展開を行っています。
食料や繊維など非資源分野の好調をけん引役に、安定した業績推移を維持してきた同社。足元でも前期の一過性利益の反動減を堅調な事業業績でカバーしながら高水準のキャッシュフローを生み出しています。子会社化したヤナセの収益改善、ファミリーマートの利益成長も寄与しており、最高益水準を維持する見通しとなっています。
注目ポイント
新型肺炎による影響については、短期的にはヘッジ済みとのことで業績への影響は軽微としていますが、どの程度続くかは不透明であり、それは他の投資先同様に注視しておく必要があります。
非資源分野での事業分散効果によって安定して高水準の最終利益を確保することができており、資本の蓄積が順調であることから、財務状況も良好です。有利子負債は前期末比1.3%減の2兆9444億円に。現金等は2.3%増の5855億円となり、ネット有利子負債は2.4%減の2兆3491億円となりました。この結果ネットDEレシオは前期末から0.05ポイント改善し0.76倍となっています。
事業の堅調推移によって生み出す潤沢なキャッシュが財務体力を充実させていることが伺えます。
また、同社はキャッシュフローを重要視した経営方針を取るとしていますが、具体的には厳選した新規投資とともに回収も進めることで、財務の安定を実現しています。例えば、2019年3月期は約5000億円の新規投資を実施した一方で、事業売却によりそれとほぼ同額となる約4800億円の投資回収を行っています。継続的な資産の入替は総合商社の特徴ですが、中でも同社はそれが上手くいっていると見受けられます。
年間配当についても増額修正が期待できそうです。同社は今期の配当について前期比2.0円増の85.0円とするとしていますが、キャッシュフローの好調な獲得や現預金の厚さなどを考慮すると、さらなる増配も期待できると思います。
また、自社株買いが開始されたことで、発行済み株式数が減少し、一株当たりの価値が上がることになります。配当利回りでは総合商社最下位ですが、三菱商事同様「累進配当方針」を掲げたことも、個人投資家にとって魅力が上がるエッセンスとなると思われます。
【PROFILE】戸松信博(とまつ・のぶひろ):1973年生まれ。グローバルリンクアドバイザーズ代表。鋭い市場分析と自ら現地訪問を頻繁に繰り返す銘柄分析スタイルが口コミで広がり、メルマガ購読者数は3万人以上に達する。最新の注目銘柄、相場見通しはメルマガ「日本株通信」にて配信中。