本人は正しい選択をしたと思っていても、制度を知らないと思わぬ「落とし穴」に嵌まって損をしてしまうのは年金だけとは限らない。
「お前、65歳まで働いたの? もったいない」
65歳のE氏は大学以来の友人たちとの飲み会でそんな言葉を投げつけられた。
大手飲料メーカーを60歳で定年後、雇用延長で働き、定年後に給料が大きく下がった人に国(雇用保険)から支給される「高年齢雇用継続基本給付金」も5年間受け取ってきた。本人は「国の制度でもらえるものは全部もらった」つもりだった。
65歳になると、「高年齢求職者給付金」を申請した。
これは2017年から65歳以上の会社員も雇用保険に加入することになったのにあわせて新設された「65歳以上の失業手当」にあたり、失業給付の50日分が一括で支給される。会社の経理が受給手続きをしてくれる高年齢雇用継続基本給付金と違って、自分でハローワークで申請する必要があるため、知らずにもらい損ねている人が多い。
E氏はその手続きをとったのだった。しかし、同じように定年延長で働いていた友人は別の選択をした。実は、65歳になる前に失業すれば、高年齢求職者給付金より支給期間が長い従来の失業保険がもらえる。
そこで友人は「64歳11か月」で退職することで、失業給付を150日間、総額約73万円もらっていた。
64歳11か月で退職するという方法を知っていたかどうかで、失業給付に100日分、ざっと50万円の差がついたのだ。ファイナンシャルプランナーの長尾義弘氏が語る。
「切りがいい65歳で第二の人生をスタートさせようと考えて退職したら失業給付を損したというのはよくあるケースなので、雇用延長で働いている人は注意すべきです」
※週刊ポスト2020年3月27日号