あなたの視聴履歴は大丈夫?
毎月定額で、インターネット経由で映画やドラマが見放題になるネット動画配信サービス。昨年、定年退職したD氏(63・元会社員)がそのサービスの利用を始めたのは、新型コロナの感染拡大がきっかけだった。
「遊びに出にくい雰囲気なので、仕方なくずっと家にいるんだけど、とにかく暇で暇で。大学生の息子に愚痴をこぼしたら、ネットテレビ(動画配信サービス)なら月定額で映画が見放題だという。さっそく加入しました」
どの映画を観ようかとD氏がひとりで検索していると、懐かしい映画のタイトルが目を引いた。
「谷崎潤一郎原作の『鍵』っていう映画があってね。愛欲描写がすさまじくて、1959年最初に映画化された時は『18禁』だった。その後、何度もリメイクされていて、ピンク映画の巨匠・木俣堯喬監督の作品(1983年公開)は映画館で観ましたよ」
『鍵』がどうしても観たくなったD氏は、夜中、こっそりとリビングで視聴した。そしてその翌日──。
「妻と一緒に何か映画を観ようということになり、ネットテレビの画面を出したら、『おすすめ映画』という一覧が出てきて、それが『失楽園』とか『濡れた赫い糸』とか、色っぽいタイトルの映画ばかり。妻は不機嫌そうな表情で『あなた、いい年をしてお盛んなのね』と厭味をいったきり、口をきいてくれなくなりました」(D氏)
外出もままならないまま、D氏は自宅で肩身の狭い思いをしている。