「何を書くか」を話し合う
自筆証書遺言でもうひとつネックとなるのが、保管場所だった。死後に家中を探しても見つからなかったり、遺産分割してから見つかったりといったリスクがつきまとう。また偽造や変造を防ぐため、相続が発生した後に遺言書を家庭裁判所に持って行き、内容を確認する「検認」が必要で、その手続きに1~2か月かかることもあった。
そんな面倒も今夏から変わる。
「今年7月からは自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになります。預ける際に法務局で形式などを確認してくれるようになるので、後で不備が指摘されてトラブルになるのを防ぐことにもつながります。法務局で保管するため偽造などの心配もないので検認手続きも不要となります」(前出・橘氏)
こうした制度改正に備えてやっておくべきことがあるという。
「遺言書を作成する際は、なるべく相続人全員が集まって会議を開くことをおすすめします。相続人が顔を揃えた場で財産目録を見せ、全員が内容を共有するのが望ましい。“誰に、何を、どのくらい”と明確に書くことがポイントです」(同前)
これまで遺言書は「資産がたくさんある人が作ればいいもの。自分には関係ない」などと考える人が少なくなかった。
ただし、実際には相続財産が少なくてもトラブルにつながるケースは多いのだ。
「相続人たちも内容に納得している遺言書があれば、遺産分割協議での“争続”を防ぐことができます。今回の改正でより安価で手軽な自筆証書遺言という選択肢が有力になったので、少しでも多くの人に活用してほしい」(同前)
数か月後、慌ただしい毎日が戻ってくる前に、資産目録をまとめたり時間がかかるかもしれない話し合いを済ませたりしておくことで、末永く家庭円満に過ごせる。
※週刊ポスト2020年5月1日号