安倍政権は消費増税先送りに伴って「今こそアベノミクスのエンジンを最大にふかす」と宣言し、6月2日には「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定した。全員参加型の一億総活躍社会を実現するために、子育て支援や社会保障の基盤を強化して「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」を目指し、それが経済を強くして「名目GDP(国内総生産)600兆円」を実現する――というプランである。
だが、近著『偽装中流』が話題のジャーナリストの須田慎一郎氏は、「大黒柱の給料アップを諦めて、今まで働いていなかった女性や中高年、そして障害者などを引っ張り出して総動員させることでどうにか世帯全体の収入を賄おうとする政策にすぎない」と看破する。須田氏が解説する。
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3本の矢(大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略)を掲げた「アベノミクス第1幕」では、家計の大黒柱の賃金水準そのものを引き上げようとした。しかし、それが思い通りにいかないことがわかると、「第2幕」では上ではなく、働く人たちを増やして横に広げようという発想に転換させた。第1幕の失敗を認めたのも同然といえる。
一億総活躍プランでは「同一労働同一賃金の実現」を目標に掲げるが、これはパートなど非正規雇用の待遇改善であり、大黒柱の賃上げに直接的な関係はない。「家族総動員で働いてどうにか家計を支えてください」というのが一億総活躍の正体なのだ。
だからといって、政策通りに世帯全体の収入が増えるかといえば、話は別だ。