かつて高度経済成長期に「分厚い中間層」が形成され、「一億総中流社会」がもたらされた。安倍首相はそうした歴史をもう一度復活させようという意味合いを込めて「一億総活躍」なるスローガンを繰り出しているのだろうが、そうならないのは統計などを見ても明らかといえる。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、1世帯当たりの平均所得金額は2013年に528万9000円。しかも、平均所得以下の世帯の割合は6割を超え、所得金額別では200万~300万円未満の世帯が14.3%と一番多いのである。過半数の世帯が中流に届かない所得水準で暮らしているのだ。
ただでさえ「中流」にしがみつくことが難しい中、高齢者になると「下流」へと転落する可能性は高まる一方だ。
現役時代と異なり、老後に収入が減るのは不可避である。前述の「国民生活基礎調査」では、高齢者世帯の平均所得金額は前年比2.8%減の300万5000円へと下がっているうえ、実に9割近い高齢者世帯が全世帯の平均所得金額を下回っている。すでに高齢者が下流へと転落する流れは加速しているのだ。
今のところ、自分は「中流」と思い込んでいても、実はいつの間にか「下流」にこぼれ落ちていく可能性は日に日に高まっている。今や「偽装中流」と言われても仕方がない人々が増えている。アベノミクスを鵜呑みにはできない。
※須田慎一郎・著/『偽装中流』より