新型コロナウイルスの感染拡大が日本経済に大きなダメージを与える中、厚生労働省は今年3月に年金制度改正法案を国会に提出し、まともな議論がないまま5月12日には共産党を除く与野党の賛成で衆院を通過、今国会での成立が確実となった。
年金改正法案は具体的には、【1】パートなど短時間労働者の厚生年金の適用拡大、【2】在職老齢年金の支給停止基準の緩和、【3】年金繰り下げの年齢上限を75歳に引き上げ――の3つの柱が盛り込まれている。その狙いについて、年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏はこう解説する。
「これまで年金には『老後の生活保障』の役割があったが、これからの時代は年金だけでは国民の老後の生活を支えきれないから、65歳以降は年金をもらいながら働き、生活費の不足分を稼ぐという社会に転換していかなければならない。
そのため、在職老齢年金の年金カットを縮小して多くの人が年金をもらいながら働きやすくなる仕組みに変える。また、仕事の収入だけで生活できる人には75歳まで年金を繰り下げて長く働いてもらうかわりに、年金額を増やすという、国民にとっては定年後の人生設計の大幅な見直しを迫られる内容なのです」(北村氏)
だが、年金をもらいながら働きたいと思っても、コロナで求人は急激に減り、企業倒産が相次いでいる。コロナ後の社会は労働環境が大きく変わり、政府が意図するような高齢者が「年金では足りない生活費を働いて稼げる社会」がやってくるかは疑問だ。年金制度改正のコンセプトそのものが見直しを迫られている。
それでも厚労省が急いで法案を成立させようとしているのはなぜか。北村氏はこの制度改正には、国会で議論されていない重大なテーマが隠されていると指摘する。