まずは「老後資金不足」の正確な金額だ。金融庁の報告書にあった年金だけでは2000万円足りないという試算について、政府は「誤解を招く書き方だった」と文書の受け取りを拒否したが、その金額が正しいのかの検証も説明も一切なされていない。北村氏が語る。
「年金だけでは足りないから定年後も働けというのであれば、政府は老後資金の不足額を隠さずに国民に伝え、コロナ後の社会でどのくらいの収入を得ることができるのか、年金と給与のモデルケースを国会に示すべきでしょう」
厚労省にとっては突かれたくない問題であり、コロナで隠しておきたいのだ。次は「マクロ経済スライド」という年金を毎年減らしていく仕組みの見直しだ。
「働きながら年金をもらう社会にするのであれば、年金を毎年目減りさせていく政策を廃止しないと、国民は長期的な資金プランを立てることが難しくなります。この議論もなされていない」(同前)
そして「75歳繰り下げ」制度の導入の陰で厚労省がひた隠しにしているのが、年金支給開始年齢の70歳引き上げだ。
「政府はこれまでの年金改正で先にサラリーマンの定年を引き上げ、その後、年金支給開始年齢を引き上げるという方法をとってきた。今国会では来年4月から70歳までの雇用延長を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法改正案を成立させている。次に来るのは年金の70歳支給であることは明らかです。
さらに今回、年金を繰り下げできる年齢が75歳まで引き上げられるのは、いずれは完全な年金75歳支給にするための布石とみていいでしょう」(同前)