そこで厚労省は、コロナ収束後の次の年金改正で国民年金と厚生年金の積立金の統合を検討している。
「年金積立金の統合は、サラリーマンが積み立ててきた厚生年金の保険料で、パートや自営業者の年金を支えようというものです。当然、サラリーマンの年金は減ることになる。しかし、コロナでは国民年金の加入者だけでなく、厚生年金加入者も大きなダメージを受けているから、統合問題が表面化したら大きな批判を呼ぶでしょう」(北村氏)
国民は、日本の年金制度の危機がどのくらい深刻なのかの実情を全く知らされていない。
財務官僚出身の経済学者、小黒一正・法政大学経済学部教授は、厚労省が昨年発表した年金の「2019年財政検証」の資料をもとに、年金制度の“隠れ債務”といえる積立金不足が1110兆円に上ると試算している(『公的年金(厚生年金+国民年金)が抱える「暗黙の債務」』ダイヤモンド・オンライン2019年10月21日付)。
巨額の債務はコロナ危機でさらに膨れ上がり、破綻が近づきつつある。今回の年金制度改正では到底近い将来の年金破綻を防ぐことはできない。
年金積立金が底をつけば年金制度は現役世代が1年間に支払う保険料をそのまま高齢者の年金給付に回す完全賦課方式に移行し、厚生年金も国民年金も大幅に減額されることになる。
そうならないためにはどんな改革が必要なのか、いまが国民に年金の真実を詳らかにして国民的議論をする最後のチャンスかもしれない。
【プロフィール】北村庄吾(きたむら・しょうご)/1961年生まれ、熊本県出身。中央大学卒業。社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー。ブレイン社会保険労務士法人 代表社員。コロナ倒産を防ぎ、社員の雇用を守るための『「雇用調整助成金」完全申請マニュアル』が発売中(http://koyoujoseikin.jp/)。
※週刊ポスト2020年6月5日号