そんな最中に出てきた定額給付金だ。石橋を叩いて渡るような老後を過ごしてきたAさん夫婦も、最初は「20万円もらえる」と思って喜んだというが、すぐに「私たちは生活に困窮していないし、コロナの影響も受けていないよね」と思い至った。
Aさん夫婦は「これからも様々な給付金の話が出てくるかもしれないけど、もし私たちが1人あたり10万円を辞退すれば、本当に困っている人に20万円を渡してもらえるのだろうか」と、結論の出ない話し合いを続けているという。
Aさんが、この悩みを離れて暮らす40代の息子に相談したところ、「給付金をもらわなかったとしても、それはただの自己満足。むしろ父さん、母さんの2人で20万円もらってそれを使い切って経済を回す方が、世の中のためになるのでは?」と言われたという。
とはいっても、昭和20年、終戦の年に生まれたAさん夫婦の感覚からすれば「贅沢をするのは苦しんでいる人に申し訳ない」という思いもあり、申請書は手許に届いたものの、まだ申請するには至っていないようだ。
かくして「一律10万円給付」は受給対象の人々に様々な逡巡をもたらしている。「もらえるものはもらっておこう」と考えるか、「もらえるけど、辞退すべきではないか」と考えるか、コロナで収入に影響を受けなかった年金生活者ならではの悩みがあるようだ。