こんな殺伐とした現状について、東京女子大学教授(情報社会心理学)の橋元良明さんはこう話す。
「まだ大学も対面での授業ができないので、実家に帰っている学生が多い。ところが、やはり岩手県出身の学生は実家から『周囲の目がある。帰ってこないで』と言われ、やむなく東京に留まっているようです」
“東京菌”ともいえるこの風評被害を聞いて思い出すのは、2011年の東日本大震災後のこと。放射能検査をクリアしているにもかかわらず、「東北産の農産物は放射能に汚染されている」などという心ない流言が広がった。
「平時には意識されませんが、実は日本社会にはいまだに“ウチ”と“ソト”の間の壁があり、特別なことが起こると、それが“ヨソ者”を排除する力として作用する。今回も連日の報道で『東京=コロナ感染者』という度を越したイメージがつき、いわば中国での『武漢出身者』と同種の視線が向けられている。『ケガレたヨソ者を排除しよう』という心理が働いていると思います」(橋元さん)
このヨソ者排除の「ムラ意識」は、東京を含め日本のどこにでもある意識だと、橋元さんは言う。
「もともと日本は、島国で山地が多いことから、地域間の風通しが悪く、“ムラ意識”が発達しやすい。他国と地続きのヨーロッパやアメリカは多民族社会であって地域的流動性も高く、こういった意識が低いことと比べると、かなり対照的です」
わが国独特といってもいい状況のようだが、今回のコロナ禍においては特別な事情もある。目に見えないウイルスであり、無症状感染者も多いことで、「誰が感染者かわからない」と疑心暗鬼を生じる。これが不安や恐怖をあおり、人々は“ヨソ者”の排斥に駆り立てられるのだ。
こうして、故郷である地方へ帰ることができなくなった人たちは東京に閉じ込められる。だが、“復活”に向かって動き始めたこの街でも、彼らが安心して暮らすことは難しいかもしれないのだ。
※女性セブン2020年7月2日号