熾烈な競合関係にあった2社が一緒になる――大企業同士の合併には大きなインパクトがある。8月16日に英紙『ファイナンシャル・タイムズ』(電子版)が報じた「日産とホンダ」という日本を代表する自動車メーカーに“合併案”が存在したとの一報も、関係者に大きな衝撃を与えた。振り返れば、各業界に「幻の合併」が存在する。
世界でのインフラ受注競争に勝つという名目のもと、2011年8月に「経営統合へ」と報じられたのは日立製作所と三菱重工だ。『経済界』編集局長の関慎夫氏が解説する。
「日経朝刊で報じられた直後、当時日立の社長だった中西宏明氏(現・経団連会長)が『午後に会見を行なう』と発言し、関係者の間では正式合意の発表とみられていました。しかしその後、両社がこの記事の事実を否定したのです」
売上高9兆3100億円(2010年度)の日立製作所と、売上高2兆9037億円(2010年度)の三菱重工は以前から水力発電などで部分的な提携を進めており、途上国などの需要が見込める成長分野である社会インフラ事業の拡大を目指していた。
実現すれば原発から鉄道システム、IT、家電までを抱える世界最大規模の総合インフラ企業が誕生する――はずだった。なぜ、この統合話は露と消えたのか。
「三菱重工は“三菱の御三家の長男”ともいわれ、三菱グループの中でも別格という意識がある。しかし当時の三菱重工の売上高は3兆円弱なので、統合すれば約9兆円の日立製作所に飲み込まれることは明らかです。三菱重工の社内も前向きではなかったとされる」(前出・関氏)