大事なのは家そのものでなく畑と共存していける家
田舎暮らしは、はじめからうまくいったわけではない。最初に住んだのは、田んぼに囲まれた“ぽつんと一軒家”のような家で、住むに堪えない「ボロ家」だったという。
「へびやたぬきが庭に出るし、廊下はねずみが走っているし、雨が降るたび雨漏りしました。東京生まれ東京育ちのダーリンにはがまんできない環境で、『都落ちだ』と、とんでもなく落ち込んじゃったんです。田舎暮らしに憧れる人もいると思いますが、あまりに田舎すぎる場所はやめた方がいいと思います」
次に引っ越したのは、住人の海外生活で空き家になった同市内の賃貸だった。住み心地は抜群だったが、5年間という期間限定だったため新たな「棲家」を探すこととなる。そして選んだのが現在の家だ。
「条件に合う賃貸を探すのは本当に苦労しました。正直、もっと広くておしゃれなところに住みたいと思ったのですが、『おれたちにとっていちばん大事なのは、畑とセットになった暮らしができる家だ。家そのものじゃない』ってダーリンに言われて、目が覚めたんです」
老後の資金に余裕があれば、サービスが充実した高級施設や最新設備が整ったマンションを終の棲家に決めるのもいいだろう。しかし、ゼロから再出発したばかりの林夫婦には、「棲家」よりも「暮らし」の充実が何より重要だという。
「60代になると、いつ死んでもおかしくないという思いは常にあります。私たちは子供もいないし、すでに死んでいたかもしれない命だから、死ぬことはもう怖くない。だけど、教科書どおりの終の棲家を準備してしまうと、寂しさと死への不安だけが残るようで嫌なんです。