こうした報道を見た「自粛者」は「こういった危機感のないバカが感染を拡大させるんだ! ワシは我慢して家に閉じこもっているというのにけしからん!」なんて怒りを沸々とたぎらせることでしょう。かくしてコロナを巡り社会がますます分断されてしまうのです。
観光地に行っても「楽しい」アピールはNG?
かような「自粛警察」の皆様方の存在があるがために、「謎ルール」も誕生しています。マナー講師の井垣利英氏は、9月22日に放送された『直撃LIVEグッディ!』(フジテレビ系)「withコロナ観光地 混雑時の新マナー」という特集の際に「SNSの新マナー」を紹介していました。同氏によると「旅行時の投稿は『楽しい』アピールではなく施設の感染対策などを伝える」だそうです。
つまり、観光地に行った場合は「いぇーい、温泉最高!」などと書いて楽しげな写真を載せるのではなく、「○○温泉の××ホテル、入口の消毒液は充実しているし、部屋にも消毒液完備。お風呂はフロアごとに入れる時間が決まっている“密”を避ける充実の感染対策です」などと書け、ということですね。
まぁ、自粛をしている人への配慮をしましょう、ということなのですが、「遊ぶ」という行為は人間に与えられた尊い権利ではないのでしょうか。2月からもう7か月も自粛を強いられたんですから、もう我慢できなくなった人を責めるのはやめましょうよ。
正直、遊びたい盛りの子供達や若者がずっと自宅に籠っていられるわけもありません。いちいち監視をし合い、遊んでいる人が糾弾されるような社会は健全ではないでしょう。
こうした今の社会の有り様を、恐ろしいことと考えるか、「安全のためには仕方がない」と捉えるか――。これは人々の思考を判断するにあたって、分かりやすいメルクマールとなるのではないでしょうか。この面で考えが合致する人同士は気が合うと思います。
◆中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう): 1973年生まれ。ライター。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『恥ずかしい人たち』(新潮新書)。