姉たちも幼い頃はお漏らしぐらいしただろうが、末っ子のAさんにはそれを知る由はない。年下なら知識や能力が劣るのは当たり前だが、姉たちにとってはそれも嘲笑の対象だった。この不条理な状況に耐えかね、気が付けばAさんは姉とほとんど口をきかなくなり、そのまま10~20代の大半をやり過ごした。両親も姉弟の不仲は理解していたが、「年齢が上がれば仲良くなるはず」と、さして深刻に考えていなかった。しかし結果的に、姉弟の不仲が解消されることはなかった。
「私が大人になっても、姉から子供扱いされる構図は変わりませんでした。なぜなら私は、永遠に年下ですから。あらゆることを上目線で語られるのは、本当に不愉快です。親が生きていれば状況も違ったでしょうが、父も母も亡くなり、仲裁に入る人間はいません。わざわざ絶縁を宣言するのも面倒なので、そっと距離を置くようにしました」
子どもが生まれて関係が復活し…
このままゆったりと関係をフェードアウトさせるのがAさんの理想だったが、数年前に状況が変わる。結婚して息子が生まれたため、姉たちに一応連絡。これで姉弟関係が復活してしまったのだ。
「姉は2人とも未婚なので、甥の誕生に大喜び。『近くに来た』だの『誕生日プレゼントを渡したい』だの、何かと理由を付けて会いに来たがります。あまり強硬に拒むのも面倒なので、家に招いて無難に時をやり過ごしていると、5歳になった息子が、姉に『トランプをしよう』と言いました。息子はようやく数字が分かるようになり、トランプがやりたくて仕方ないのです。覚えたての神経衰弱をやることになりました」
トランプに参加したのは姉2人と息子。しかしゲームが始まると、忘れかけていた幼い頃のトラウマが蘇った。
「信じがたいことに、姉2人は5歳の息子を相手にまったく手加減せず、どんどんとカードを取っていきます。1枚も取れない息子は大泣き。すると、息子をあやすわけでもなく、『はーい、泣いたらゲームはおしまい』と、ゲームを打ち切りました。