住宅地で隣家との距離が近ければ、その分トラブルが発生する可能性も高まるだろう。誰もが経験するかもしれない近隣トラブルに関する悩みについて、弁護士の竹下正己氏に回答してもらった。
【相談】
隣家の屋根の庇(ひさし)が境界線を少し越えています。そのため、雨が降ると庇から流れ落ちる雨水が、私の家の外壁に当たります。もう10年以上その状態が続いているせいで、その部分の外壁にひび割れなどが起こってしまいました。今度、外壁塗装をし直そうと思っていますが、隣家にいくらか負担をしてもらうことは可能でしょうか。せめてひび割れ分だけでも修理費を請求したいです。
【回答】
隣家の庇の越境は、あなたの土地所有権の侵害です。しかし、そのことだけでは修理費の請求はできません。金銭請求するには、庇の越境を隣家が継続し続けたことが不法行為になり、この不法行為による損害として修理費が発生した、といえる場合に請求できます。
不法行為成立には、客観的な事情として庇の越境と損害との相当因果関係が、主観的要件として隣家の故意・過失が必要となります。前者では、庇が越境していること、越境した箇所から隣家の屋根や庇に降った雨水があなたの家の外壁に当たっていること、そのために外壁にひび割れが発生したこと、外壁塗装はその結果として必要になったことなどの因果関係の証明が必要です。
なお、損害として賠償を請求できるのは、通常発生する範囲(相当因果関係がある範囲)です。庇に雨どいがついていない場合、庇に降った雨は庇の傾きに沿って流れ落ち、外壁との距離が短ければ当たる可能性があります。