しかし、庇の越境がなくても、隣家とあなたの家の間の距離、降雨時の風向き、さらに風力によっては、隣家の屋根に降った雨に限らず、建物の外壁に雨が吹き付けられて当たることもあります。また、時間の経過で外壁にひび割れが出ることもあります。
そこで、単に越境しているというだけでなく、越境の程度がひどいことや隣家の庇からの雨が当たっている箇所に限ってひび割れができていることなど、庇の越境とひび割れの因果関係が肯定される根拠を確認する必要があります。
これらの点は、庇から流れ落ちる雨水が外壁に当たっている様子を動画で撮影したり、問題の外壁のひび割れが隣家の庇から落ちる雨水で起きていることについて専門家の意見を得ることで、ある程度証明できると思います。しかし通常は、賠償請求の対象になるのは、外壁全体の塗装工事費額ではなく、ひび割れ部分の塗装費用相当額となります。
次に、もし隣家が越境に気がついておらず、たとえば隣家との境界線が明確ではないなどの事情から庇のわずかな越境に過失があったといえない場合には、不法行為の主観的要件がなく、隣家の責任は問えません。
隣人との良好な関係維持は大切です。しかし、庇に限らず、樹木の枝などでも越境している事実があり、そのことに不満を感じていれば、大ごとにならないうちに指摘して善処を促す姿勢も必要です。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2020年10月15日号