その背景にあるのが、住宅ローン返済年齢の高齢化だ。日本経済新聞(10月5日付朝刊)は「住宅ローン 完済年齢上昇 平均73歳、年金生活不安定に」の見出しで、定年退職後も住宅ローンを返済し続ける高齢者が増えていくことを報じた。
記事は住宅金融支援機構の過去20年分の住宅ローン利用者(約122万人)のデータを分析したもので、完済年齢は20年前(2000年度)の「平均68.3歳」から、現在(2020年度)は「平均73.1歳」へと、なんと5歳も高くなっている。
理由は、マイホームを購入する年齢が高くなり、借入金額が増え、金利も低下していることで、返済期間が長くなっているからだ。
日経報道によると、住宅ローンの平均融資額は20年前の1900万円から3100万円へと1.6倍に増えた。借金が増え、返済期間が長くなれば、当然、定年時のローン残債も多くなる。60歳時点の平均残債は20年前の700万円が、現在は1300万円を超える。
それに対して、大卒の定年退職者の退職金は平均1788万円、この20年で1000万円も減った(厚労省の就労条件総合調査)。
かつてはローンの残債を払っても余裕があったが、今や手元にはわずかな金額しか残らない。
「年金でローンを払い続ける」のが当たり前の時代になったことが数字からもわかる。
50年ローンも登場
家は「人生最大の買い物」といわれる。多くの人は前出のAさんのように住宅ローンを組むとき、「残債は退職金で繰り上げ返済し、年金はすべて生活資金にあてる」という定年後の人生設計を思い描いていたはずだ。
“夢のマイホーム”を持ち、現役時代に返済を終え、リタイア後は借金を持たずに年金生活を送る―という“第2の人生”のライフスタイルが理想とされ、「年金で住宅ローンを払う」なんて“人生計画の失敗”という価値観は今もシニア世代に根強い。
そもそもかつては住宅ローンの完済時の年齢上限が「70歳未満」という条件があった。つまり、貸し手も借り手も70歳過ぎても払い続けることは想定していなかった。