映画が公開されると瞬く間に、平日と土日における日本公開映画の興行収入と動員数で歴代1位を記録。歴史的なメガヒットとなった漫画『鬼滅の刃』(集英社)はなぜ現代日本人の心を鷲掴みにするのか。
舞台は大正期の日本。東京・奥多摩に暮らす10代の少年、竈門炭治郎が主人公だ。父親の病死後、家業の炭焼きをしながら6人きょうだいの長男として一家を支えてきた。だが、留守中に家族を「鬼」に殺され、ただひとり生き残った妹・禰豆子も凶暴な鬼に変異しかける。妹を人間に戻すため、鬼の根絶を目指すため、炭治郎は「鬼殺隊」という組織に入って鬼退治の旅に出る──というのが物語の大筋。
作品の人気の秘密が「炭治郎というキャラクターにある」と読み解くのが、作家の橘玲さんだ。
「“これが自分の生き方なんだ”と一切の迷いなく、真っ直ぐに、必死に生きる主人公に惹かれる人が多いはずです」
たとえば、同じく人気漫画でも『ドラゴンボール』の孫悟空は世界や宇宙を救おうとするし、『ONE PIECE』のルフィは海賊王を目指す。つまり、世界のヒーローになりたがるのだが、「なぜそうしたいのか」がはっきりしない。だから、孫悟空もルフィも物語の中で「自分は何者なのか」という“自分探し”に迷いながら進んでいく。
一方、炭治郎の場合は、目標が明確かつシンプル。「妹を救いたい」の一点だけ。ヒーローになりたいとは一切言い出さない。だから、自分の目指すものに迷いがない。炭治郎は鬼との戦いで骨が折れても、自分を鼓舞する。
《頑張れ炭治郎頑張れ!! 俺は今までよくやってきた!! 俺はできる奴だ!! そして今日も!! これからも!! 折れていても!! 俺が挫けることは絶対に無い!!》(『鬼滅の刃』コミックス第3巻より)