人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第6回は、米大統領選後の株価の動きについて分析する。
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11月3日の投票日から4日もかかって、ようやく民主党のジョー・バイデン前副大統領の当選が確実となったが、この期に及んでもなお、ドナルド・トランプ現大統領は敗北を認めようとせず、“悪あがき”を続けている。政権移行に必要な手続きも遅れ、両者の対立は泥沼化、どうにもすっきりしない格好となっている。
一方で、株式市場は、ホワイトハウスに居座ろうとするトランプ氏の向こうを張って、連日大きく上昇している。バイデン氏の勝利がまだ確定していなかった6日には、早くも日経平均株価が29年ぶりの最高値を更新し、バブル崩壊後以来の高値に沸いた。米国のNYダウも、9日には前日比800ドル超もの上昇を見せ、史上最高値更新に迫る勢いを見せている。
だが、そもそも大統領選前は「トランプ氏再選なら株高、バイデン氏当選なら株安」という見方が、市場では目立っていた。それまでのトランプ政権とは対照的に、バイデン氏は大企業や富裕層向けの増税を打ち出し、それが株価下落を招くという理屈だ。それなのに、なぜバイデン氏勝利で株価は上昇したのか。それもやはり、「行動経済学」で説明できる。
大統領選前は、どちらが勝つかわからないことで、マーケットは行動経済学でいう「コントロールの欠如」に陥った。不確定要素が多く株価も金利も今後どうなるかはっきりしないため、市場参加者がコントロール出来ない状態だったのだ。
それが徐々に開票が進んでいくにつれ、「少なくとも“トリプル・ブルー”にはならない」ということが見えてきた。トリプル・ブルーとは、大統領だけでなく、上院でも民主党が過半数の議席を獲得し、すでに民主党が多数を占める下院を含めて、大統領選と上下院選の全てを民主党が制し、民主党カラーの「青」一色の状態になること。現状では、大統領と下院が「青」でも、上院だけは共和党優勢の「赤」になっているためトリプル・ブルーは回避された。