政府が行政手続きのはんこ使用廃止を進めているが、印鑑登録をした実印が必要な手続きは今後も残る見通しだ。家や自動車購入時などに押印が求められ、実印を持った時に「自分も一人前の大人になった」と実感した人もいるのではないだろうか。
こうして、日本に根深く残るはんこ文化だが、女性の立場からすると「おや?」と思うこともあるようだ。それは実印作成時の経験によるものだという。
40代の女性会社員・Aさんは、20年ほど前に弟が大学院進学時の奨学金を借りるにあたり、保証人になったことから実印が必要になった。それまで認印しか持っていなかったため、実印を作ろうとはんこ屋を訪れた時のことだ。
「はんこ屋さんに行って、書体などを相談しているときに、店員の中年男性に『女性が実印を作る場合、名字を入れると結婚できなくなるよ』と言われたんです」(Aさん)
Aさんがその店員から聞いた話によると、結婚後に姓が変わる可能性がある女性が、名字を入れた実印を作ると、結婚後に無駄になるだけでなく、「自分を未婚に縛ってしまう」という理屈。併せて「その代わり社会的には成功しやすい」とも説明を受けたという。何の根拠もない説明だが、Aさんは、当時の心境をこう振り返る。
「父や兄は姓名で実印を作っていたので、私も何も考えずに姓名で入れようとしたんですが、当時は独身。運気や風水にこだわるタイプではまったくないのですが、そんなことを言われたら気になってしまって……」(Aさん)
Aさんは結局、店員の「名前だけでもいい。女性はほとんどそうしている」という言葉に従い、名前だけの実印を作ったものの、納得がいかない感じは残った。ちなみに購入した実印は1万円ほどしたにもかかわらず、結局20年間で使ったのはその1回だけだという。
「もはや実家のどこにしまったかわからない。1回だけのために高い実印を作るって無駄だなあと思いますが、悪用を防ぐという意味合いでは仕方のないことなのでしょうか」(Aさん)