女性は結婚して姓を変える前提?
30代の女性会社員・Bさんは数年前、マンションを購入するために実印を作ったが、やはりAさんと同じような経験をしたようだ。はんこ屋の男性店員から言われた「女性は結婚するから名前だけの方がいい」「フルネームだと家庭に入った場合、女性の運気が強くなり男性が弱ってしまう」などという言葉に違和感を覚えた。
「なぜ女性は結婚して姓を変える前提で語られるんでしょうか。しかも女性が強いとまるで男性がダメになるみたいな言い方……。50代くらいの店員でしたが、時代錯誤というか、今でもこういう古い考え方がまだ生きていることに驚きました」(Bさん)
Bさんが驚いたのは、それだけではない。実印のサイズ、書体や掘り方にも「女性らしさがあったほうがいい」という説明だった。今となっては「意味がわからない。本来の目的と違う」と憤りを隠さない。
「サイズは男性よりも控えめな小さいものを選んだ方が一般的、書体も優しい印象のものを選ぶ人が多い。彫り方も男性は繁栄のために縦書き、女性は安定のために横書きの方がいい、等々……。古くからの慣習なのかもしれないとは思いますが、実印に『女性らしさ』を求めてどうするのでしょうか。そんなことよりも、いかに偽造されないかが重要なのでは」(Bさん)
30代の女性会社員・Cさんは、大学卒業後に母親から実印をプレゼントされた。やはり「名前だけ」ということに疑問を持った一人だが、その理由を聞いたところ、意外な回答が返ってきたという。
「『フルネームだとその家の大黒柱みたいなイメージでしょ。それにあんたは大きな買い物しないし、実印を使うこともないと思うのよね。名字だけのはんこはいっぱいあるけど、名前だけってなかなかないじゃない。だから記念よ』と母に言われました。その時はそんなものかと納得したのですが、使わない前提ならなぜ贈り物にしたのだろうか、とモヤモヤします」
実印作成時の言葉の裏に潜む前時代的な女性観──。はんこ文化が男性中心社会の産物でもあるならば、はんこ廃止の流れは、単にデジタル社会へのシフトというだけでなく、時代の趨勢として当然のことなのかもしれない。