トランプ大統領の行政命令は覆される?
一方アメリカでは、任期が後2か月強に迫る中、トランプ大統領が強引な政策発動を続けている。
トランプ大統領は12日、アメリカの投資家に対して、中国軍が実質的にコントロールする企業への投資を禁じる行政命令を発布した。対象は全部で31社(グループ)である。この中には非上場のファーウェイ(華為技術)のほか、大手通信キャリアであるチャイナモバイルの親会社(中国移動有限公司)、中央系国有企業集団で中国の航空工業産業をリードする中国航空工業集団(AVIC)、中国中車(01766)など、多くの重厚長大型産業の中核企業が含まれる。
アメリカの投資家に対して中国株の取引を禁止したからと言って、それで企業のファンダメンタルズに影響するわけではない。短期的には株価に影響も出るだろうが、いずれは政府系ファンドや、社会保障資金、保険運用資金など、中国本土の別の投資家に買い戻されるだけである。ただ、イノベーションを起こすにはリスクマネーが必要である。それを確保するには資本市場の充実が欠かせない。そういう観点からすると、トランプ政権による今回の措置は影響が大きい。
もっとも、この行政命令は2021年1月11日から実行されるが、その9日後には、バイデン新政権が発足する。この政策はバイデン氏を支持する金融界にとっては都合が悪い。すぐに撤廃されるのではないかと予想している。
トランプ大統領は、ファーウェイや中国のイノベーションを牽引する多くのハイテク企業をエンティティリスト(輸出規制の対象となる企業リスト)に載せ、実質的に輸出禁止措置をとったがその際、中国側が反論の余地のない、しっかりとした証拠を示しただろうか。現在、大統領選挙の不正に対する訴訟を起こしているが、証拠などないのではないかと思ってしまう。
アップルやテスラだけではない。P&G、コカ・コーラ、ナイキといった消費関連から、モトローラー、ボーイングといった重厚長大産業に至るまで、中国ビジネスを重要な収益源としている企業は多い。彼らにとって、米中デカップリング(切り離し)は悪夢でしかない。
グローバル企業がバイデン政権に期待する政策は、損失を被るばかりの米中デカップリング戦略ではなく、巨大な中国市場でアメリカ企業が不利にならないよう貿易環境を整えることである。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動中。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。